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【開催報告】 持続的競争力を学ぶ九州視察ツアー

去る9月8-9日、千葉県生産性本部は、埼玉県生産性本部、埼玉県生産性本部川口支部、神奈川県生産性本部と共催で、九州生産性本部の協力を得て、九州視察を実施した。

視察の目的は、企業が競争力を長期にわたって構築・維持・強化していくための実践的なマネジメントを学ぶことにある。今回訪れたのは、TOTO株式会社、株式会社ふくや、そして福岡ソフトバンクホークス株式会社であった。

視察企業① TOTO
来年、創業百周年を迎えるTOTOは自社の強みの源泉が「快適で清潔な生活空間を提供したい」との創業者大倉和親の情熱に端を発し、苦労の末、独自の研究開発によって国産初の陶製腰掛水洗便器を完成させた志の高さとそれを実現する技術力の高さにあるとしている。また、創業母体の森村組の森村市左衛門の日本経済に貿易で貢献するとのグローバル化思考、5代目社長江副孫右衛門が拘った一つの不良品も出さないとの「良品と均質」への強い思いも、長期的に培われてきた自社のDNAであるとしている。世界でも群を抜く節水技術も含めたTOTO環境ビジョンも加えて、真のグローバル企業へとさらに歩みを早めている。

視察企業② ふくや
博多で辛子明太子を始めて世に出したふくやは、そのレシペを自社で囲うことなく開放し、その結果として博多と言えば明太子との地域ブランドが形成されるまでに地域興しにも貢献してきた。創業者川原俊夫は発売から10年も掛けて商品改良に没頭し、顧客が望む味を確立した。この創業時の経験が、最初に作った会社、規模が大きい会社がNO.1ではなく、美味しいものを作る会社がNO.1であるとの同社の基本思想を生み出した。「元祖と書いて味が良くなるわけではない」と、元祖という言葉を付けることを拒否し続けた。この父を継いだ2代目社長の母川原千鶴子は、元気な社員がいる会社が元気な会社との信念で、社員の育成、待遇に力を注いだ。こうした両親の教えに基づいて正孝社長は味を守るのではなく、絶えず味に挑戦する企業風土を競争力の源泉として、新商品や新規事業に挑んでいる。時代とともに変わる嗜好に合わせて、少しずつ新たな味にも変化を加えているし、明太子を核として、缶明太子、tubu tube、醤明太など次々と新製品を上市している。また食材をキーワードに、コックなどの専門家向けのスーパーをはじめとして多角化も推進している。

視察企業③ 福岡ソフトバンクホークス
3年連続でのV3を目指し躍進する福岡ソフトバンクホークス。地方に拠点を置くというハンディにもかかわらず、観客動員数250万人と12球団中3位、球場平均稼働率93.6%と2位を確保し、さらに動員を増やそうとしている。常勝球団をビジョンとして掲げていち早く3軍制度を導入し、ファーム専用球場を建設して常時観客の前で2軍選手も試合できる環境を整えるなど強い球団づくりに邁進している。しかも宮崎春期キャンプもイベント化して33万人集め、球場ではホームランテラスやダブルシートを用意し観戦の仕方に工夫を加え、試合中も楽しんで応援できるよう様々な演出を仕掛けて、地元を超えてより多くのファンに愛される球団づくりにも傾注している。さらには親会社に頼るのではなく、独立採算での運営で、企業として財務的にも自立した球団になろうと日々努力している。自前球場を運営することを強みの源泉として、野球を中心に付加価値の高いスポーツビジネスを構想し、その実現に向かっている。

今回視察した会社はいずれも、いわば地方都市に創業の地をもち、本社を構えている。とは言え、自社の強みを活用して事業を全国に、もしくはグローバルに展開している。地方にあって地方を越える「在地越地企業」である。こうした企業のビジネス構想やマネジメント手法に、多くを学んだ。

<文:明治学院大学 経済学部 教授 神田 良>